Lieder ohne Worte


やっぱりあるよな。
世の中には、取り返しのつかないことって。

もしもいつか彼方の地で、お前との再会が叶うのならば。
おれはただ伝えたい。

ありがとう。
ごめん。
そして、さようなら  と。

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マジありえねぇ…!!
秋風の中、チャリを飛ばして住宅街を走り抜ける。
練習試合の日に、寝坊。
昨日の夜遅くまで、秋斗と電話をしていたせいだ。

おれの所属している野球部は練習量が多くて、監督の指導も的確という、この辺りの高校でもトップクラス。
特に時間と約束には厳しい。
なのに、遅刻寸前という危機…!!

集合時間きっかり、おれは集合場所となっているグラウンドに到着した。
危ねぇ…

「なんとか間に合ったね、誠也」

にやっと笑って声をかけてきたのは、昨夜の電話相手、三谷秋斗。

「…るせぇよ、お前のせいだろ!!」
お前が、六組に可愛い女子がいるとか語り出すから…

「喋るな、三谷、佐川!!」
主将に軽く睨まれ、秋斗と一緒に頭を下げる。

「よし、全員そろったな。これからバスで、相手の学校まで移動する。
一つ言っておきたいのは、うちの学校とは土の状態とか、周りの環境がまったく違う。
ついたらできるだけ確認するように」

「はいっ!!」

おれは一年だけど小学校のころから野球を続けてきて、レギュラーだ。
秋斗も、おれとは今まで学校こそ違ったものの、同じように小学校のときから野球をやっていたらしい。
ちなみにおれのポジションはファーストで、秋斗はショートだ。
おれがファーストだっていう理由の要は、左投げってこと。
対する秋斗はおれよりも肩が強い。
ショートだというのも頷ける。

遅刻寸前のおれでも、相手の学校に着いてしまえば、もうあとは流れに乗って、順調に役割をこなしていった。
相手のチームも決して弱いところではなく、5回の裏までは0対0。
6回の表で相手に2点、先制点を奪われて、こっちは逆上。
同じ回の裏で、相手のエラーとか先輩のスリーランホームランとかで2点取り返し、
そこからはもう、試合の流れはこっち向き。
7回の表は守りきり、その裏で追加点を3点、そのまま勝ち越した。

その帰り。

「なんか最近遊んでないよなぁ、おれら」

「あ、明日午後から部活ないよな!?」

「っしゃぁ、打ち上げすっかぁ!!」

こんな軽いノリで数人集まり、翌日の午後に試合の打ち上げをすることになった。

「そういえばあんた、昨日の試合どうだったのー??」

母さんが尋ねてきたのは、午後1時30分を少し過ぎたときだった。
予定通りに午前で部活が終わり、15分ほど前に一旦家に帰ってきていた。
打ち上げの集合までは、あと20分。
家から集合場所まではチャリで15分以上かかる。
着替えもしなきゃならないのに。

「勝った。当たり前だろ」
素っ気なく言って、ユニフォームを脱ぎ捨てる。

「なによその言い方」
母さんは鋭く目を細め、

「あんたそれ、親に対する口調じゃないでしょう」

「知るかよ!!  なんだよ親に対する口調って。
親だから偉いのかよ、大人だから偉いのかよ??  やってらんねぇ」

床で丸まっているユニフォームをそのままに、おれは服を着て、乱暴に戸を閉めた。

「…うわぁ、それはやらかしたな」

途中の道で同じく自転車に乗っている秋斗に会い、二人で集合場所へ向かっている。
家を出てくるときの母さんとの喧嘩を秋斗に話したら、こんな答えが返ってきた。

「それは言い過ぎだぞ、誠也。腹立つのはわかるけどさぁ」

「試合の結果をなんで今聞くのよって、おれはそれに腹が立ってるんだって!!
昨日の夜聞けばよかっただろ??
ちゃんと何時から打ち上げに行くかも言ってあったし、こっちが急いでるのわかってるはずなのに、
普通そんなときに聞いて、あげくの果てに説教するかよ!!」

おれの苛立ちは、頂点に達していた。 
だけど秋斗は小さく首を傾げる。

「じゃあ、急いでるから帰ってきたら話すって言えば良かったんじゃない」

「あーっ、ったく、これだから秋斗は!!  気だてのいい奴は嫌だよ、ほんとに!!」

わかってる、秋斗が正しいことくらい。
でも…おれはきっと、どうかしていたんだ。

「もうこれ以上秋斗と言い争いたくないから!!  やっぱおれ先行くわ」

「誠也!!」

秋斗の呼ぶ声がする。
けれどおれは、チャリを飛ばした。
集合場所に着いて、秋斗が追いついてきたら、謝ろう。
おれから謝って…
仲直りをしよう。

秋斗は温厚な性格だ。
怒ったところなんて見たことがなく、本人曰く、親と喧嘩をしたことがないそうだ。

「喧嘩になりそうだったら、話しいに切り替えるんだ」と、彼は言っていた。
お互いが少しずつ妥協しあって、お互いの利害が一致するところで収めるんだ、と。
本当にすごいよ、お前は。

集合場所に着いたときには、五分の遅刻だった。

「おい誠也、遅ぇぞ」

「悪い」

「秋斗みなかったか??  まだ来てないんだ、あいつ」

「あー…」
おれは口ごもった。

「会ったけど…喧嘩して、おれが先に来ちゃった」

「喧嘩ぁ??」
ポジションレフト、乃木圭吾が、眼鏡の向こうから疑うような視線を向けてくる。

「秋斗が喧嘩なんてするわけないだろ??」

「…うん…いや、おれが一方的に言っちゃっただけなんだけどさ」

圭吾は鼻で溜め息をついた。
予想通り、そんなとこか。
…そう言いたいんだろうな。

「したらあいつ、来ないかもなぁ」
センターの野崎歩が、ちらっと腕時計を見て言った。

「雰囲気悪くしたくないからって。気を使って来ないかも」
…やべぇ、おれ。
完全に八つ当たりしたんだ。

「…電話かけてみるわ」
ポケットから携帯を出して、秋斗の携帯に連絡をしてみる。
《…お客様の…は、電波の届かないところにいるか、電源を……ピッ》
うおー…通じねえ。

「…しゃあないかぁ」
おれの表情から、連絡がつかないことを読み取ったらしい。
圭吾が二度目の溜め息をついて、「おれらだけで行くか」と、自転車に跨がった。

「…なんか悪いな、雰囲気壊して…」
おれが謝ると、「仕方ないよ、こんなこともある」と、歩がフォローしてくれた。
…サンキュー。


それからおれたちはマックに行って、映画を観て、ゲーセンをふらついた。
秋斗のぶんまで、今日は楽しんでやらなきゃな。
みんな、そう思っているみたいに。
時々秋斗がひょっこり現れないかと、店の外を覗いたりもした。
…でもやっぱり、秋斗は来なかった。
そりゃそうか。
集合場所以外、おれたちが具体的に行く場所なんて、決めてなかったんだから。
明日絶対、謝ろう。なんか悪いことしちゃったもんな。

家に着いたのは午後6時過ぎ。
母さんにも謝ろうと、電気のついたリビングに入る。




…秋斗が事故で死んだことを聞いたのは、その時だった。

おれと別れた直後。
やっぱり秋斗は家に帰ろうとしていたらしい。
交差点を渡っていると、信号無視をした車に撥ねられて。

…即死だった。


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もしもあの時、おれと秋斗が別れていなかったら。
秋斗は死なないですんだのだろうか。
葬式の時、秋斗の両親は「誠也くんのせいじゃない」と、泣きながら言ってくれた。
でも、本当にそうだろうか。

誰もおれのことは責めなかった。
おれ以外は。
おれは自分を責めて、責めて、責めまくった。
だって…おれたちが楽しんでいた時、秋斗が来ないかと伺っていた時。
秋斗はすでに死んでいたんだから。

惨めで、悔しくて、悲しくて。
おれはこの悪夢を、一生背負い続ける。

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世の中には、取り返しのつかないことがある。
どうしても。
だからこそ、おれたちは一瞬一瞬を大切に、生きなければならないんだ。

割れた皿のように。
傷ついた心のように。
人の死のように。

失った時は、取り戻すことができないから。
時は、前にしか進まないから。

おれたちはその尊さを知るために、生きなければならないんだ。


お前に、心から伝えたい。

生の儚さ、時の尊さ。
全部、お前が教えてくれた。

心から、ありがとう。




=短編小説Lieder ohne Worte


あとがき。
Lieder ohne Worteの意味は、ドイツ語で「無言歌集」。
秋斗が言葉無くして生の尊さ、一瞬の大切さを伝えたことからつけました。
ま、文が稚拙なのはいつものこと←えっ
ってことで。
今回もここまで読んでくださり、ありがとうございました-。
(鹿鈴)


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2008